Q9 学校の健康診断の項目から、色覚検査が廃止されたと聞きましたが?

 

お答えします 2003年度より一律検査は廃止となったのですが、
       目的を変えて、再び検査が再開されている地域があります。

 

 

 

 

★ 現在まで学校での色覚検査は以下のような歴史をたどってきました。

 

 1920(大正9) 身体検査に「色神」が規定され「色盲及色弱の区別」が求めらる。検査は在学中に1回で可。
 1937(昭和12) 「色覚異常の有無」が求められる。尋常小学校3年以上毎年検査。
 1944(昭和19)
  ~1948(昭和23)
戦時中の特例で色覚検査免除。
 1958(昭和33) 学校保健法成立。「色神障害の有無及び障害の種類を明らかにする」となり、就学時及び毎年、全児童生徒に検査実施となる。
 1973(昭和48) 就学時の検査はなくなり、小学校1年・4年、中学校1年、高等学校1年、高等専門学校1年で検査となる。
「色覚異常の有無」および「強度異常」「弱度異常」を判定となる。
 1978(昭和53) 「色覚異常の有無」の判定のみとなる。
 1995(平成7) 小学校4年のみの実施となる。検査は教室以外の別室で担任でなく養護教員が行うことになる。
 2002(平成14) 学校保健法施行規則の改定で、定期健康診断の必須項目から色覚検査が削除される。

 

 検査が次第に減らされていったこと、また検査で判別する内容・目的が二転三転していることがわかります。

 

★ 学校において検査をする以上、その最大の目的は、学校生活に必要な配慮をするためでなければならないこというまでもありません。
 文部科学省スポーツ・青少年局学校健康教育課が監修した1995年版の「児童生徒等の健康診断マニュアル」(発行:公益財団法人 日本学校保健会)のなかにも、色覚検査の目的と意義について次のように説明されています。

 

 

児童生徒の健康診断マニュアル(1995年版)

 

 

 ※原文の写真です。クリックすると拡大します。 

 


★ しかし実際には「色覚異常」と判定された子どもに対して、教育現場ではほとんど何の配慮もされてきませんでした。
 配慮をしようにも、教員自身が少数色覚について知識がなかったのです。
  むしろ、誤解や偏見がまかり通る中では、ハイリョではなくハイジョがされていったといえるでしょう。

 

 

★ だれかを特定しないと配慮はできないから検査で抽出するという理論は成り立ちません。どの教室にも一人はいてもおかしくないほど少数色覚の児童生徒がいることはわかっています。配慮をするならば、いつでも目の前には少数色覚の子どもがいるという前提で、どの教室でも、いつでも行わなければならないはずです。
 検査が必要だという理由にはなりません。
 

 

 

★ 色覚検査は、その家系の遺伝情報をつかむことにもなり、学校で検査することを問題視する声もあります。
 検査について何も説明されず、有無を言わさず全員が受けさせられ、告げられるのは「色盲」「異常」や「将来は・・・」という悲観的な言葉だけ・・・事後指導もありません。
 少数色覚者にとっては、たまったものではありませんでした。
 子どもが「色覚異常」だと告げられた母親が実父を泣いて責め立てます。「この子は進学でも就職でも結婚でも差別される!」と。何十年も自分が「色覚異常」であることを家族に隠してきていたことを家族に土下座して謝罪する。または、夫や夫の両親から「お前の責任だ」と母親が責められ家を出されます…そんな悲劇も、あちこちで起きていたのです。

 

 

★ そうした人権問題(色覚問題)があるため、前述の「95年版マニュアル」には、色覚検査の補足として色彩感覚の説明に続いて以下のような記述もありました。

 

 

※原文の写真です。


 また、石原式検査表の仕組みの説明もあり、その最後の一文は次のように結ばれていたのです。

※原文の写真です。


そうです。石原式色覚異常検査表による判定結果のみを材料として、進路指導をすることは避けるべきである。
と断言していました。

 

★ 1980~90年代、少数色覚者に対する大学等の入学制限や企業が採用拒否する割合が膨れ上がり、差別撤廃とその是正を求める声が強く上がりました。上記の補足説明が「マニュアル」に書かれたのは、書く必要性があったことは容易に推察できます。
 入学できなければ希望する進路に就けない、就職で拒否されれば生活にさえ困る、そのように排除される「色覚異常」は結婚でも問題になる、結婚して息子が「色覚異常」だとわかると離縁されることも起きる、それは「あの家の血のつながった人とは…」という分断まで生む、…それがまだ強く残る時代でした。
 制限や受け入れ拒否は、そこだけの問題ではなく、少数色覚者やその家族親戚まで影響を与える「いのちに係わる問題」も含んでいたから「マニュアル」にも補足があったのです。

 

 

★ 2001年厚労省は雇入時の健康診断(雇い入れた人の健康を守るために定期的に行う健康診断)で義務づけられていた色覚検査を廃止。
 これは同時に、採用選考時の少数色覚者の受け入れ拒否の防止対策の意味合いも大きく含んでのことでした。

 

 

★ 続いて文科省は、「近年、色覚異常についての理解が進み、色覚異常についての知見の蓄積により、色覚検査において異常と判別される者であっても、大半は学校生活に支障はないという認識のもとに(色覚に関する指導の資料 はじめに 文部科学省)」2002年3月末に学校保健法施行規則一部を改正し、翌月から学校での健康診断の項目から色覚検査を削除。これが80年にわたって行われてきた一律色覚検査の廃止となりました。
 この変革には、社会的に排除されたことに憤る少数色覚者やその家族団体、それを支援する医師や教師、人権団体などの廃止を求める大きな声がありました。

 

 

★ 一方、文科省の通知には「今後も、学校医による健康相談において、色覚に不安を覚える児童生徒及び保護者に対し、事前の同意を得て個別に検査、指導を行うなど、必要に応じ、適切な対応ができる体制を整えること」「定期の健康診断の際に、必須項目に加えて色覚の検査を実施する場合には、児童生徒及び保護者の事前の同意を必要とすること」「今後も、色覚異常検査表など検査に必要な備品を学校に備えておく必要があること」などの指示もありました。

 

 

★ さて、この問いの最初に示した「色覚検査の年表」はここまでなのですが、実はその続きがあります。
 そうです。ここから、色覚検査をめぐる状況は驚くべき方向へ舵が切られます。
 目的が180度変わって「再開」されてきているのです。

 

 

2014(平成26)年 

「学校保健安全法施行規則の一部改定等(通知)」の「その他健康診断の実施に係る留意事項 色覚の検査について」を通知。具体的には、学校において色覚検査ができることを広く知らせ、検査を推進することを指示。

 

 

★ このきっかけは2013年の日本眼科医会の調査報告でした。それは「色覚異常の子どもたちが進学や就職の際に断念するなどトラブルがあるので、小学校低学年と、中学1~2年に色覚検査を行うのが望ましい」というもので、これをもとに眼科医会は国に検査復活を求めました。
 文科省はそれを受け、各都道府県知事や教育委員会教育長などにあてた改定通知で次のように伝えたのです。

 

 

① 学校医による健康相談において、児童生徒や保護者の事前の同意を得て個別に検査、指導を行うなど、必要に応じ、適切な対応ができる体制を整えること。

 

② 教職員が、色覚異常に関する正確な知識を持ち、学習指導、生徒指導、進路指導等において、色覚異常について配慮を行うとともに、適切な指導を行うよう取り計らうこと等を推進すること。特に、児童生徒等が自身の色覚の特性を知らないまま不利益を受けることのないよう、保健調査に色覚に関する項目を新たに追加するなど、より積極的に保護者等への周知を図る必要があること。

 

★ 保健調査とは、学校独自に作成される家庭から学校へ提出する健康調査表です。そのなかに「色覚異常の有無」を記入させるなどして、すべての子どもに「異常」がないかを確認させる(または、学校等で検査を受けさせる)ことを求めたのです。

 

 

★ まわりくどい説明をわかりやすく書き直してみましょう。
 
 ●「児童生徒等が自身の色覚の特性を知らないまま不利益を受ける」ことを防ぐ = 少数色覚者が受け入れ拒否されているなど不適格とされる仕事に就くことや、その資格取得や職業をめざす」ことを最初から避けさせる、あきらめさせる

 

 ●(そのために)学校で検査ができることの周知を図る = 全員に色覚検査を受けることを強く勧め学校で石原式検査表により検査を行い、「色覚異常」の児童生徒を発見したら「それらの仕事は君には無理だ、ダメだ」と教員から当該児童生徒や保護者に伝える。自分が「異常」で「その進路はめざさない方がいい」と自覚させ、保護者も納得させれば、その子は不利益を受けることはない
 というわけです。

 

       
★ 「なるほどな」と思われる方もいるでしょう。少数色覚者の中にも「早く分かった方が進路決めるのに役立てよい」と考える人もおられます。
 しかしわたしたちは、それが本当の問題解決になるとは思えません。先に記した1990年代ころまで残っていた少数色覚への誤解や偏見に基づく「いのちに係わる問題」を含む色覚問題は、それで解決するでしょうか?
 例えば、就職で制限したり重視したりは現在も続いています。そこへメスを入れることなく、制限される理由は「少数色覚者自身の問題」とされ、避けさせれば、いっこうに少数色覚者への差別はなくならないと考えます。

 

 

 

★ いま一度、1995年当時の「色覚検査の意義と目的」「検査の問題点」などと2014年の内容を見比べてください。
 それまでするべきではないとされてきた「進学・就職等のため」の検査を、今度は目的として行えという180度の方向転換です。
 検査を勧める理由づけの矛盾になってしまう【このページに写真で提示した《入学制限の緩和》《色覚異常と資格取得》《石原式検査表の説明など》】は「新マニュアル」から跡形もなく削除されました。
 「新マニュアル」を手にする教職員(特に若い養護教員)は示された検査方法以外の色覚問題について知ることも学ぶこともできなくなりました。もちろん、一律色覚検査が廃止になった経緯など知るよしもなく・・・
 「だまって指示されたとおり検査をしろ」といわんばかりです。
 そして2015年に登場した「色覚検査のすすめ!」というポスターは、たいへんな物議を醸し、現在眼科医会のホームページからは消えています。

 

 

 

★ わたしたちがもつ現在の色覚検査に対する違和感は、わたしたちだけが持っているわけではないようです。その認識や考え方が現在各地の検査の実施に反映されているようです。
 具体的ないくつかの調査結果をお見せします。

 


 上の表は、中部地方のA市と中国地方のB市のそれぞれ小学校と中学校の色覚検査を受けたなどの割合です。
 まず、検査を受けた割合が2つの市で大きく異なっています。「眼科受診勧奨数」とは校内の石原式検査で「疑いあり」と判定された割合で眼科医の受診を学校が勧めたということです。勧められても全員が眼科医を受診しいません。いちばん右の枠は、眼科で受診して「色覚異常」と判定された割合です。この数値には多くの疑問がわいてくる人もいるでしょうが、ここでは検査を受けた割合の差に注目してください。

 

 

 

 

 

★ この表は、C県全体の色覚検査実態調査の一部です。検査の周知の方法にかなりのばらつきが見られます。それぞれの学校で色覚検査の実施に疑問や課題を感じているためだとアンケート実施母体は分析しています。
 結果、検査受検は小中学校で0.5%、高等学校で3.8%とA市・B市と比較して非常にその割合が低いことがわかります。特に着目すべきは検査の「希望を募ったが希望者なし」の割合が高いことで、希望の募り方や学校内の少数色覚理解対応研修等による教職員の認識の差やそれぞれを管轄する教育委員会の考え方が大きく影響していると考えられます。

 

★ 希望により検査を受けるか受けないか、どちらを選ぶかが子どもや保護者に問われています。いずれを選択するにしても、色覚検査や色覚多様性、さらにその人権問題まで正しく知ることがとても大切だということはまちがいないことだと思われます。
 わたしたち「しきかく学習カラーメイト」は大分で生まれそこを活動拠点としています。その大分では、県教育委員会が2005年に策定し2015年に改訂した「人権教育推進計画」の中に次のような記述があります。

 


★ 大分以外でもこのように明文化したものがある地域もあるでしょう。こうした認識や意識を社会全体がもち、どうするべきかという具体的方策をいま考える必要があるのではないでしょうか。