問8 色覚検査には、ほかにどんな検査方法があるのですか?

 

お答えします いくつもの検査方法がありますが、それぞれの検査で判定できるものが異なります。

 

 

★ 色を自在に操れるようになった私たちの先人は、感じ方が人によって異なることに気づきました。それまでは、少数色覚というちがいや困るような不都合も感じていないため気づかなかったのです。
 ジョン・ダルトンが色覚の世界で最初の研究者とされています。少数色覚をダルトニズムと呼んだのは「色覚の異なる人」という意味の言葉だと解釈します。それが「色の区別がつかない人」として「色盲」と呼ばれるようになったのは、「劣った」ものという意識と検査で抜き出す必要性があると判断されたからでしょう。

 

★ そのきっかけは1975年スウェーデンで起きた鉄道事故でした。原因は、「鉄道従事者が『色盲』で信号の見まちがえたからだ」と同国の生理学者ホルムグレンが結論づけ、その主張を本として発表するとともに自身が作成した色覚検査法で検査すべきであると訴えたのです。
 おりしもヨーロッパでは産業革命により蒸気船や蒸気機関車のめざましい発展が続いているなか、あっという間に「信号が判別できない不適格者を抜き出し、排除する」という目的のために「色覚検査を実施すべき」とされ、彼の検査法は世界中に広まりました。

 

★ このようにして世界中に提案されたホルムグレン式検査法ですが、羊毛法と呼ばれるものでタグをつけた毛糸の色合わせを行うものでした。日本では小さい毛糸をマス目上に並べて表のようにし、どれが同じかを問う検査表が輸入され1900(明治33)年日本語版が発売されています。

 

★ 学校用色覚検査表に掲載されてきた「解説」のなかにこの鉄道事故や同じ頃起きたとされる汽船と帆船の事故についての記述もあります。いずれも船長が「色盲」であることが原因であると説明され、だれもが職業選択前に色覚検査をし、「色盲」者は「不適当である職業」に就いてはならないと記載されてきました。以後2002(平成14)年まで80年以上、その記載は学校で読み続けられたわけです。

 

★ 21世紀になり、スウェーデンの事故は少数色覚が原因とはいえないことが研究により証明されました。また汽船と帆船の事故については、できうる限りの調査で私は記録を探したのですが該当する事故についての記述は(検査表以外の)どこからも発見できていません。研究者のだれかが一つでもその記録を発見できたという話も聞いていません。

 

 このようにして始められた色覚検査ですが、いま石原式検査表以外でおもに使用されている検査方法について説明しましょう。

 

 パネルD―15テスト
 色のついた16個のキャップを、基準になるいちばん左から色が似ている順番に並べ、その並べ方のパターンによって「パス」と「フェイル」に分けます。「パス」は「正常」または「軽度の色覚異常」、「フェイル」は「強度の色覚異常」と判定されます。すなわち、「色覚異常」を強度と中等度以下(軽度)に分けることを目的とした検査です。ただし、「軽度」の人も「パス」するため、「色覚異常」かどうかの判定には用いることはできません。

 

 アノマロスコープ
 大きな顕微鏡のような機械で、のぞき込むと、なかには光の円が見えます。円の下半分は黄色、上半分は緑と赤の混合色です。この緑と赤の混合比率を変えていき、被験者が下半分を同じ黄色になったと判断したところで赤と緑の比率を調べます。「正常」とされる人と比べ、1型の人の場合は赤を、2型の人の場合は緑の光を多くしないと下の黄色と同じ黄色には感じません。アノマロスコープは「色覚正常」か「色覚異常」かの確定判定に、また色覚のタイプの判別にも用いられています。ただし、S錐体の感度をほとんど使用しないため3型の診断には使えません。日本眼科医会は、石原式検査表を含めた前述の3つの検査は併用して行うように指示しています。

 

★ もっとも、そのアノマロスコープを備えている医療機関はかなり限られています。現在、少数色覚であることを自認する人でも、その多くはこの3つの検査を受けた人はごく少数だと思われます。

 

 

★ 一方、学校教育上配慮が必要な児童かどうかを判断するという目的の「教育用色覚検査表 CMT(Color Mate Test 『色のなかま』テスト)」が考案されています。このCMTは、着色した5つの四角形を十字に並べ、縦と横のどちらが似ているかを被験者に問います。(カラーメイトでも扱っています!)
 仮性同色表のように「読める=○」か「読めない=×」かではないことから被験者の心理的負担が軽い上に「どちらが似ているかという答え」から、被験者がどの色の区別を苦手としているかを把握することができ、保護者などに色を示したアドバイスをすることも可能です。

 

★ しかし、「色覚異常」と判定される当事者やその保護者などの多くは、その理論的な診断名ではなく、他の人とどのようにちがうのか、どんなことに気をつけるべきか、保護者としてはどのように対応すべきかなどのアドバイスなどこそ必要としています。

 

 

 自分や自身の子どもの色覚を知りたい、あるいは診断書が必要な場合など検査を受ける必要が生じる場合もあるでしょう。その際は、色覚多様性や色覚検査についての基礎的な知識とはっきりした目的意識を持った上で、ほんとうにその検査が必要かも検討して臨んでほしいと思います。